常識を超えろ
篠永 正道(S47年卒)
50周年おめでとうございます.
私は脳神経外科学教室が開設されたとほぼ同時に入局しました.当時,初期研修を終えてもすぐに入局は許されず2年ほど一般外科を県立足柄上病院で研修しました.外科一般を学べたことは無駄ではなく貴重な経験でした.外科手技だけでなく外科的ものの考え方を学ぶ点で.もっとも学んだのはゴルフでしたが.大学病院と関連病院での修行にたくさんの思い出があります.ガッセル神経節ブロックを桑原教授に教わったこと,初めてCTで脳を見た時の驚き,米国留学でモノクローナル抗体作成技術を身に着けたこと,何よりも米国を体験したこと.当時,米国には人種問題だけでなく南北問題も根強く存在していました.まだCTが普及していないとき,診断は主にアンギオで行っていました.特に印象に残っているのは山口先生が10分以上1枚の脳血管画像をじっと見ているとき,「先生何をしているのですか?」と尋ねると「手術をしているのだよ」と.その時以来どんな手術でも必ずシミュレーションをする習慣を身に着けました.難しい手術の時は何十回もシミュレーションをして,それはとても充実した楽しい時間でした.ここではこれ以上の思い出話は抜きにして,若い脳神経外科医にエールを送ります.それは常識を疑い,常識を超えろということです.この20年は脳脊髄液減少症を中心に診療してきました.むち打ち症後遺症の一部は脳脊髄液漏出であることを見つけたのは常識を覆したからです.はじめのうちは誰もこの考えを認めませんでした.現在少しは認められたかなと思っています.この疾患に取り組むなかで,脳脊髄液の神秘にとりつかれました.脳脊髄液は脳の機能を正常に保つために重要な働きをしているのに,このことに気づいている医師のなんと少ないことか.
脳神経外科はまだまだ未開拓の分野があり,脳脊髄液はそのひとつです.
私は気力・体力のつづくかぎり不定愁訴に苦しむ患者さんに寄り添います.