教授になられての豊富,感想を
― 名誉ある本学のスタッフとなったことを光栄に思ってこれからこの大学の人になりきって,あらゆる面で一生懸命やりたいと思っています.大学の使命というものは,教育,研究,診療ですね.脳神経外科というものは,臨床医学の一つですから,診療を大切にし,そこに充分根をおろして,教育,研究を考えてゆこうとおもいます.
― 脳神経外科に進まれたいきさつ,あるいは理由がありましたら
― 神経系というものは,あまり経験に頼らなくても,症状を正確に把握すれば,診療は容易につきますね.そんな事もあって,神経系に,興味を持っていました.解剖学や生理学のような基礎がわかっていれば,正確に診断できる,より科学的な分野と思っています.また,治療に結びつくということで,脳外科へ….
― これからの脳神経外科というものは?
― 我々が臨床をやっていて多いのは,脳腫瘍ですね.御存知のように良性のものと,悪性のものとがある.最近,術前術後の管理,あるいは麻酔,また手術そのものの進歩により,良性のものはよほど手遅れにならない限り,とり得る,そして全治し得るんです.問題はやはり,悪性のものです.これは今の外科だけでは,仕方のない面も持つものですが,その治療をこれからなんとかしていかなくてはいけない.もう一つ,脳の動脈瘤,それがここ数年,話題になっています.これは上手に治療するということで直りうるのです.それから,小児の先天奇形.これはどんなに進歩しても最後まで残るものです.広く言えば,予防,そして適切な治療をすることが重要でしょう.
― 市大病院の場合には,救急医療はやっていないのですが,交通事故などによる頭部外傷などは?
― 実際面では,頭部の外傷は非常に多いもので,臨床の脳外科では重要なものです.そういう社会的必要に応じて,最近,特にここ十年ほど,クローズアップされたし,各病院にもそのための診療科ができ,大学にも講座ができるようになった.まあ,頭部外傷に関してはやることはやったという感じがします.予防がもっともっと必要なことと思います.
― 他の科との関係は?
― 脳神経外科ということで,中枢神経と末梢神経を扱うわけですが,体のあらゆるところにあるものなので,他の臨床科目と関係が深いですね.特に,眼科,耳鼻科,神経内科に関連が深い.逆に言えば,他の科との協力がないと,脳外科はやっていけないようなところです.診断の面においてはもちろん,現在は治療の面,手術においても,眼科,耳鼻科と協同に行うことがしばしばあります.
― 学生の教育に関しては,どのような方針をお持ちですか?
― どんな教育方針をとってもらいたいかと,私が学生に聞きたいんですけれど.最近の傾向として,ベッドサイド・ティーチングということで,ベッドサイドで実際に教え,あとの細かい事は自分で本を読んで勉強するという方針をとっている所が多いようですが,どういう本を,どこに重点を置いて読めばよいかを話して,勉強する一つの刺激,モーメントを与えるような講義をしたいと思っています.将来,他の科にいきたい人に,ぜひ覚えておいてもらいたいような事は,そのつど,強調して話したい.例えば,脊椎破裂など,最近では生後24時間以内,遅くても2〜3日の内に手術すれば,予後が良いことがわかってきました.そのようなことを小児科,産科の人に知っておいてもらいたい.また,脳腫瘍の診断も,早く疑いを持って,脳神経外科へおくってもらわないと….学生の時は,純粋な気持ちで勉強していますが,卒業して医局にはいると,そういう気持ちを失って,患者を人間としてみるより,マテリアル,個々の症例としてしかみない風潮があるようです.「人類の幸福のための医学」ということを忘れていはいけないですね.
― 市大の脳神経外科は,三年前にできた,まだ新しい科ですが,これからのところですし,頑張ってやっていただきたいと思います.今日は,どうもありがとうございました.

昭和48年10月11日 横医新聞 より抜粋
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